Das-Association

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Richard Sinclair インタビュー in マルティーナ・フランカ

―ではまず,イタリアに移った理由についてお聞きしたいです.

 

 1990年までイタリアに行ったことはなかったんだ.その年,Caravanがオリジナルメンバーで再結成した.ノッティンガムでTVショーに出るためにね.その後CaravanがイタリアのRock’in Umbriaフェスティバルに招待されたんだ.それで僕たちはイタリアに行ってライブをした.本当に素晴らしい経験で,僕にとっては夢のような時間だったよ.オリジナルメンバーでCaravanの曲をやれたのは実によかった.コンサートには800人も来てくれたよ!皆イタリア中から僕たちを見るために集まってくれたんだ.

 ところで,僕は「ファン」という呼び方は使わない.僕にはファンはいない.全員友達なんだ.僕の音楽を聴きたいと思ってくれる人は全員僕の友達だよ.ファンよりも僕は友達をもっていたいからね.

 とにかく,これが僕のイタリア初訪問だった.それまではイタリアの風景は切手でしか見たことがなかった.若いころ切手を集めていたんだ.どれも美しかったよ.でも実際に自分の目で見たイタリアは本当に美しかった.日光が降り注いでいて……特に南イタリアでは.

 そのあと再びイタリアを訪れたのは1992年だ.僕のバンドCaravan Of Dreamsのツアーで.メンバーはアンディ・ワード,デイヴ・シンクレア,リック・ビダルフ.僕の妻ヘザーも一緒にイタリアを旅したよ.たくさんのライブをやった.皆が僕らのライブを見たがったからね.僕はCaravanのオリジナルメンバーが一緒だったときのマジックをもう一度再現したくて,それでデイヴをCaravan Of Dreamsに呼んだんだ.彼は僕のお気に入りのプログレッシブキーボードプレイヤーで,ソングライターだから.

 とても幸せな時間だったし,僕たちはイタリアで非常に暖かく迎え入れられた.そのとき,僕の中に「イタリアに住みたい」という思いが湧きあがったんだ.それから実現まで時間はかかったけどね.

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マルティーナ・フランカの街並み①

 そのツアーのあと,僕とヘザーはオランダに引っ越した.オランダは僕の生涯を通して大好きな場所の1つだよ.Hatfield and the Northのツアーでも行ったことがあるしね.僕らはアムステルダムの北にあるフリースラントというところに住んでいた.そこでも音楽を通じてたくさんの友達ができたし,いい時間を過ごせた.そのあとまたカンタベリーに戻ってしばらく暮らしていたけど,家を売り払ってイタリアに引っ越したんだ.色んな木々に囲まれたこの場所にある,トゥルーロという家にね.

 

―ところで,話が出たついでにCaravanのことについてもお聞きしたいです.再結成の後バンドを離れたのはなぜですか?

 ただ,同じ音楽を何度も何度も繰り返すのに耐えられなかったんだ.他のアイデンティティーを見つける必要があった.パイの目的に沿うよう努力はしたよ.彼はいいリーダーであり,力強いエンターテイナーだ.イギリスの音楽界でベストなエンターテイナーの1人だと思うよ.自分が何をやるべきか明確にわかっているし,そのエンターテイメントの方向性と併せて本当に素晴らしいリーダーだと思う.でも僕にはシンプルすぎるんだ.同じ音楽を毎晩やるだけなんて広がりがないよ.パイは音楽の仕事に1日中打ち込んでいるというわけでもないしね.

 

―ありがとうございます.それではイタリアの話に戻りましょう.とても美しい自然に囲まれた素敵なトゥルーロにお住まいですね.

 ここの環境はまるでマジックだよ.頭上を通っていく飛行機もないし,ラジオから流れるくだらないポップミュージックもないし,携帯電話もないし……そういったものは

僕の毎日を酷いものにする.じゃあなぜそんなものに溢れた場所に住む必要があるんだい?だから僕はこの場所に引っ越した.そういったものすべてから離れてね.この場所で,僕は自分自身と毎日を心から楽しむことができるんだ.それがイタリアに引っ越した一番の理由だよ.

 イタリアには美しい場所がたくさんあるし,天候もファンタスティックだ.毎日違うんだ,暑かったり寒かったり……冬には雪が降ることさえあるんだよ!南イタリアで雪が降るなんて信じられる?僕の住んでいるここは,海抜500mの高地にあるからなんだ.こういったことが,僕がここに住む理由だ.すべてを楽しんでいる.ここは地球上で最も美しい場所の一つだよ.

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マルティーナ・フランカの街並み②


―あなたのライフスタイルはとても魅力的ですね.音楽活動以外では,このトゥルーロで普段どんなことをしているんですか?

 僕にとっては毎日が音楽活動だよ.というのも,僕は料理や楽器作りや大工仕事などを音楽と分けて考えないんだ.僕にとってそれらは全部同じものだし,僕の父もそう考えていた.

 父さんは僕にこう言っていたよ.「いいかいリチャード,お前が人生の中で何をするにしても,自分がやることにベストを尽くせ.自分自身のためにやるのと同じくらい,他の人のためにうまくやるんだ」ってね.それから「どんな仕事でも,もし自分自身のためにしかやらないのならそれを人に捧げてもベストなものにはならない.人のためにやるんだ.そうすれば,人生において多くの仕事を幸せに行うことができる.」とも.本当にそうだと思うよ.

 それで……僕が毎日何をしているかという話だったね.“たくさん”だ(笑).

 色んなことをしているよ.料理をしたり,ドライブに行ったり,木を切ったり,ものを作ったり……それに今は22匹の犬を育てている.12匹の成犬と10匹の子犬だ.猫も6匹育てているよ.それに僕は料理も自分でするんだ.自分で料理をするのは世界で最も優れた行いの一つだと思うよ.特に南イタリアのような,日光が美味しいぶどうとワインを作ってくれるところではね.水は空からやってくる.

 このトゥルーロには電気はあまり来ていないんだ.でも僕らには十分だよ.この土地から僕らは何でも手に入れることができるんだ.

 

―あなたの音楽的インスピレーションについてもお聞きしたいです.インスピレーションの源となるのは何ですか?

 ここにあるすべてだ.トゥルーロの外を見て!この音が聞こえる?地球が僕らに与えるサウンドだよ.鳥の歌声が僕にインスピレーションを授けてくれる.ここにいるすべての動物が僕にインスピレーションをくれるんだ.人々が音楽だと考えるものは,まさにこの美しい自然のなかにあるものだと思うよ.そしてそれはとても静かな音なんだ.

 

―インタビュー前に,私に「ここはまさに天国だ」という話をしてくださいましたね.

 いや,ぼくは「天国」だとは言っていないよ.天国というのは,多くの人がそれぞれ違う宗教を通じて,そこに至る道を見つけるために努力しているものだしね.僕としては,皆もう既に天国にいるんだということを知るべきなんじゃないかと思うけど.

 僕はここを「パラダイス」だと言ったのさ.人々は地球をパラダイスだと思っていないし,そういう扱いをしない.狂ったみたいにコンクリートやデジタルシステムで覆ってしまっているんだ.でもここは本当に美しい場所なんだよ.

 毎朝,僕は早く起きてトゥルーロのドアから外に出て,この美しい光景を目にするんだ.日が出て,霧がかかっていて……ただただ素晴らしいよ.毎日がその日だけのカラーを持っているんだ.

 僕は違いや変化というものが好きなんだ.これまでにも,バンドを変えるのは同じことを続けるのに耐えられないからだといつも言ってきた……同じジョーク,同じ宣伝文句,同じストーリーにはうんざりだ!2年もあれば僕には十分だよ.そうすると,誰か魅力的なアイデアをもつ新しい人たちとやりたくなるんだ.

 もし同じハーモニー構造のものをただやり続けるだけなら,それはただ楽器をプレイしているだけなのと同じだよ.僕にとってはすべの音が僕の楽器だし,そこから毎日新しいものを見つける.毎日2,3の音のアイデアを書き留めてはいるんだけど,レコーディングはあまりしてこなかったんだ.ギターの音と指のポジションで覚えておくことができるしね.地球は僕たちが必要とするハーモニーのすべてを有していて,僕はそれを12個の音のスケールに落とし込む“ピタゴラス”を知っているということなんだ.

 人によっては,デジタル機器で音の調性をとることに熱心な人もいるよね.イィィィィィ(お得意の擬音を披露)って感じのさ(笑).でもそんなことしなくても,周りの環境の音に自然に溶け込んでいくことはできるんだ.

 

―本当にこの場所が好きなんですね

 うん.もちろんここ以外にも美しい場所はたくさんあると思うけど.あまりお金があるわけじゃないんだ.でもここに住むのはお金がかからないし,楽だよ.自分の創造性に思う存分打ち込むことができる.まあ,イタリア人のようにサッカーに興味をもつことはあまりないんだけど.

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マルティーナ・フランカの街並み③


 

―若いころサッカーはやらなかったんですか?

 うん,下手だったから.テニスなら息子のジェイソンと一緒によくやったけどね.僕らの腕前は普通だったけど,ジェイソンはとても上手だったよ!彼は本当のスポーツマンさ.それからまだ学生だったころ,カンタベリーのArchbishop schoolに通っていたころはいくつかスポーツをしたよ.僕は幅跳びと高跳びが得意だったんだ.デイヴ・シンクレアと同じようにね.彼は棒高跳びの名選手で,でもそれが原因で背中を壊してしまったんだけど.

 

―あなたも陸上部のメンバーだったんですか?

 いや.僕はただ楽しみの一環でやっていただけだよ.あと,ケント州の南東部では学校の競技会に出るためにスポーツをやらなきゃいけないことになっていたしね.デイヴや他のカンタベリーシーンのメンバーはグラマースクールに行っていたけど,僕は行かなかった.文法に関しては両親から教育を受けたんだ.二人ともとても美しい文法で文章を書くことができたから,僕はグラマースクールに行く必要はなかったのさ.それで僕は自分の読みたいように読めるし,書きたいように書けるようになったんだ.

(ここで筆者の顔を見て心配そうな顔をするリチャード)

 大丈夫かい?

 

―ごめんなさい,あまり英語が得意でないので……よろしければ,もう少しゆっくり話していただいてもよろしいですか?

 おーごめん,ごめんね.オーケー,僕はイタリア(Italy)にいて,もう少しゆっくり(slowly)話す.Slowly, slowly, slowly……(笑)

 

―ありがとうございます!それでは,次にあなたの歌詞についてもお聞きしたいのですが.

 歌詞?ピップ・パイルの?それともヒュー・ホッパー?

 

―いえいえ!あなたの歌詞です.

 僕の?どの歌詞のことかな.どれだい?

 

―例えばHatfield and the Northとか……

(歌い出す)♪A bed in the sky would make me higher up than sleeping under this bush, If I had a magic broom, I'd rev it up♪

 

―それにCaravanでも.特に“In the Land of Grey and Pink”とか……

 オーケー.どれもシンプルな歌詞だよ.Caravanが最初に“In the Land of Grey and Pink”のリハーサルを始めたとき,僕がこの言葉を思いついたんだ.グレイとピンクは地球の上に広がる空がどんなものかを表しているんだ.変化していく空についての言葉だよ.さっきも言ったように地球はパラダイスだ,そして空は様々な色をもってその上に広がっている……だから“In the Land of Grey and Pink”は空そのものを表した言葉なんだ.

 

―歌詞のインスピレーションは何ですか?

 歌詞のインスピレーション?うーむ……なにかハーモニーをプレイしているとき,その中から集めてきた一つ一つの音から生まれるんだ.説明するのは難しいな.自分がプレイしているときに意識したことがないからね.

 つまり……ハーモニーというのは,コードから得られるものだ.コードはベースが奏でる12個の音が組み合わさって生まれるもので,つまり12個のベースの音が生み出す“可能性”とも言えるものだよね.それを僕は“アイデア”と呼んでいる.そこから僕らはハーモニーを生み出すことができる.自分がどんな音楽をイメージしているかによって,そのハーモニーは前に進んだり横道にそれたり色々なハプニングを生むけど,分解すると結局12個の音になるわけで……それにフィットした言葉を自分自身で選ぶんだよ.

 例えばこんなメロディがあったとしよう……

(お得意のスキャットで歌う)♪Ba-Ba-Ballaba-Ba-Bo-Ba~♪

ってね.これを分解すると

Ba=Ba=Ba-lla-ba=Bo=Baというリズムになる(机をノックしながら)

このリズムに合わせた言葉をのせていくんだよ.

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しばらくスキャットで歌うリチャード.次第にそれはBossa Nochanceの歌詞とメロディになっていく

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A bed in the sky would make me higher up~

このhigher upの「up」の部分は上にあがっているでしょ.こんな感じで,ハーモニーの構造にあった言葉を選ぶことができるんだ.

でもときどき,いい歌詞が自分では思いつかないことがある.原因はわからないけどね,他の国を旅行することができなかったり,食べ物が悪かったり……まあとにかく,脳が歌詞を書くということに対して全く機能しないときがあるんだな.そういうときは他の人に頼む.主にもう亡くなってしまった人たちだけど……ヒュー・ホッパーとピップ・パイルだ!彼らの歌詞は素晴らしいよ.より文法的だし,ジョークとして面白いアイデアがたくさんあって.Hatfield and the Northのこの歌詞なんて最高さ!

(歌い出す)♪You won't believe my life's a mess. You probably think it's groovy. Meeting people every day

この詩は本当に面白い,ただ純粋に面白いよ.ピップの歌詞は本当にいいストーリーを持っているし,メロディも良い.彼は素晴らしいソングライターだよ.僕のお気に入りの1人さ.

 

―私もそう思います.

ああ!それにヒュー・ホッパーもね.二人の偉大なソングライターだ.僕のリストのトップだよ.

 

―ヴォーカルについての話も聞かせてください.歌うことを真剣に始めたのはいつからですか?

 いつだって,僕が真剣に歌ったことなんてないよ(笑).

 

―わかりました(笑).それでは……歌うときに一番大事にしていることは何ですか?

 自分が歌っているものをよく聴いて,それにノッていくことだね.でもこれまでの人生でそれがうまくいかないことも時々あった.歌うときの環境による問題だ.特に,君の言う“真剣に”歌うことをしていたバンドにいたとき――CaravanやCamelにいたときなんかはね.演奏の音が大きすぎて,全体の音響がガタガタだったんだ.

 それ以外に大事なことだと……毎日,ありとあらゆるときに歌うことだね.

 僕は本当に幸運だったと思うんだ.なぜって僕の父はカンタベリーの中で最も素晴らしいシンガーだったからね.彼はベースもドラムもバンジョーもプレイできて,歌いながらこれらの楽器を演奏していたよ.実際の生活の中でさえ,彼が話すとき,その会話は歌のようになるんだ.

 

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ギターを弾くリチャード

 

―お父さんのことを本当に尊敬されているんですね.お父さんの話をもう少し聞いてもいいですか?あなたの歌唱スタイルはお父さんからインスパイアされたものなのでしょうか.

 すべての僕の歌唱スタイルは父からインスパイアされたものだよ.彼はとにかく人に与える人だった.歌うときは,本当に他の人のために歌うんだ.そしてとてもいい声の持ち主だった.ナット・キング・コールフランク・シナトラに……他にもイギリスの有名ミュージシャンの歌を歌っていたよ.魔法のような人だった.特に人々を楽しませるという能力にかけてはね.音楽に木工細工に,楽器や家具の修理にいたるまで,色んなことができた.そういう家族のもとに生まれたから,僕がエンターテイナーになるのも自然なことだったよ.

 父のステージパフォーマンスはまるでミュージカルだったね.ジョークの一環で,ステージ上で木を伐ったりしていたんだ.ギッ,ギッ,ギギギッ(スキャットでノコギリで木を伐る音の真似)ってね(笑).もちろんステージで出す音としてはそんなに大きい音じゃない.でも音がうるさくないときのほうが人はイマジネイティブになれるし,自分自身の声を使ってものを伝えることができるんだ.とにかく,そうやって僕の父はステージ上で木を伐り,歌を歌った.本当にミュージカルみたいだったよ.

 そういえばピップにも同じことが言えたな.彼は少々騒がしい男だったからね(笑).洗い物をするときなんかいつもこうやって歌いながらやるんだ……(うがいのような音を出しながらピップの騒音を真似る).まるでリズミカルな音楽だよ(笑).

 それで……そもそもの質問は何だったっけ?

 

―歌うときに大事なことは何か,です.

 楽しむこと,そして周りにある音をよく聴くことだね.外に行くとき,僕はギターを持って行って鳥がどんな音を選んでいるのか聴きながら歌うんだ.きみも同じことをしたら,彼ら鳥たちがいかに創造性に溢れた存在なのかがわかると思うよ.そして,そのうち周りにいる昆虫やそのほかすべてのものが,自分たちの音楽をそれぞれ奏でていることに気づくんだ.君も彼らに加われる.一緒に加わって歌うんた.それを毎日やるんだ,どこにいこうと,周りの環境が何であろうとね.どこにいても,きみが扱うことのできる音というのはあると思うよ.

 

―作曲のときに大事なことは何でしょう?

 自分のしていることを楽しむことだよ.僕にとっては,政治的な歌や,災害や悲劇……例えば誰かが自殺したとか,そういったことについての作曲を楽しむのは難しい.人々が殺し合っているような歌も作りたくない.悲しみや攻撃的な感情より,幸せを作っていたいんだ.僕がロックに傾倒しない理由はそこにある.ロックの曲は僕を幸せな気持ちにはしないし,あまり心も動かされないんだ.

 僕は本当に良いソングライターたちと仕事ができてきたと思う.幸運な男だよ.パイ・ヘイスティングスにデイヴ・シンクレア,ピーター・バーデンス…….それからヒュー・ホッパーとロバート・ワイアットの作品に関われたのは本当に幸せなことだ.これまでともにプレイをしたミュージシャン全員が最高の存在だよ.

 別格はフィル・ミラーだ.僕にとっては彼の作るメロディの音をすべて拾うのは難しかったけど……フィル自身は歌わないからね.彼はいつもプレイに専念していて,そのメロディの本質をつかもうとしていた.僕は,彼の曲の中ではNan True’s Holeとかシンプルなのが好きだな.

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ここで,リチャードの愛犬のマックスが登場.クウクウ鳴きながらリチャードの足元にすり寄る

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マックス

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ハローマックス!マックスは歌うのが好きなんだよ.

(リチャード,しばらくマックスに向かって♪いい歌だね,歌詞はないけど,歌うのが好きなんだねマックス♪と即興で歌いかける)

 ええと,それで質問は……

 

―「作曲の時に重要なこと」です.

 大事なことは,自分の頭の中にあるアイデアにしろ,他からやってきた違うアイデアにしろ,それをしっかりと捉えることだね.違うアイデアというのは,例えば誰かの書いた本とか……(このタイミングで再びマックスが鳴きだす)犬の歌声とかね!(笑)

 

(マックスに向かって)マックス,ヘイ,もう充分だよ!僕らインタビュー中なんだから.歌うのはやめてあっちに行っておいで!(笑)

 

 それで……作曲について説明するのも難しいな.僕はいつもハーモニーの中で動きのあるものを書こうとしている.それをジャズのスピリットに落とし込んでいくんだ.大事にしているのは「動き」だよ.

 同じ曲でも,演奏の仕方は何千通りもある.同じハーモニーでも,違うメロディをのせて歌うこともできる.ハーモニーの動きをもっと動きのあるものに変えていくこともできるんだ.

 もし60年代や70年代のような音楽をやりたいなら,The Beatlesはとてもいいモデルだね.彼らの曲の構造はとてもシンプルだ.僕の60年代のお気に入りのミュージシャンさ.今ですら,彼らに匹敵する歌や詩を見つけるのは難しいと感じるよ.もちろん,The Rolling Stonesのほうが好きな人もいるけど,僕はThe Beatles派なんだ.彼らの方がメロディックな曲が多いし,広がりがあってストーリー性も強くて,マッチョダンサーみたいなセクシャルな面は抑えめだしね.もちろん,僕だってThe Rolling Stonesボブ・ディランの曲も好きだ.ただ,よりThe Beatlesのほうがということだよ.

 でも僕がもっと好きなのは地球上にあるすべての音……鳥や犬や猫や,違う国の人々の歌などだ.すべての人やものが自分だけのノイズをもっているんだ.さっきのマックスのようにね(笑).すべてが僕のインスピレーションとなる.君も僕をインスパイアしているよ.だって,作曲において僕が何を意識しているのか質問してくれたでしょ.僕は自分自身にそんなことを尋ねたことはないからね.いつもギターを手に取って演奏するだけだ.そうすると突然新しいハーモニーが浮かぶ.ちゃんと考えていないときでも,僕にはそれがどんなハーモニーになるかわかる.そしてギターの指のポジションを変えて自分にとって心地よい音を探っていくんだ.すべての音が動きをもちハーモニーの形になるように,まとめていくだけだよ.

 僕らは皆,自分だけのギターの弾き方を見つけることができる.いつでも,どんなふうにでも,自分の望むようにね.ただ楽しめばいいんだよ.スパニッシュギターだろうとフォークギターだろうと,まずは自分自身のプレイを目いっぱい楽しむことだ.だって自分自身のやっていることを心から楽しむことが音楽の本質なんだから.

 そのうち他の人たちもその音楽を聴きたいと思うようになる.その音楽を聴くことで,自分たちの人生に幸せや意味を感じることができるから.そして,ミュージシャンはそういう人たちからお金をもらって,活動をさらに続けることができるというわけだ.これは僕自身における大きな問題だ.いつも音楽活動でお金を稼ぐってことを忘れちゃうんだよ……そりゃ僕だってお金は欲しいけど,ギターを弾けるだけで十分幸せなものでね.

 

―あなたの音楽は本当に聴く人を幸せにする音楽だと思います.

 僕も心からそれを望んでいるよ!僕の音楽を聴いた人が幸せな気持ちになれるのは,僕にとってもハッピーなことだ.僕もいい音楽をたくさん聴いたとき,幸せのあまり涙が流れることがある……「わお,世界は素晴らしいぞ!」ってね.きっときみも同じように感じてくれているんだろうな.

 それで……きみのさっきからの質問の答えをまとめると,「聴くこと」と言えるだろうね.作曲するときも歌うときも,大事なのは聴くことさ.自分が作ったノイズがどこに行くかを見極め,返ってきた反応にどうレスポンスするかを考えるんだ.

 

―自分の作った曲の中で一番お気に入りの曲は何ですか?

 次の曲だよ.いつだって,まだ完成させていない作りかけの曲が一番さ.すでにレコーディングされた曲の中でいうと……僕は,皆にそれぞれのお気に入りの曲を教えてって聞くんだ.実際,僕自身のお気に入りというのはないのさ.たくさんの人がそれぞれの好きな僕の曲を教えてくれて,そうするとそれが僕のお気に入りになる.だってその曲を皆が楽しんでくれているんだからね!つまり,僕自身は自分の曲の一番を選ぶことはないんだ.選ぶのはきみたちさ.

 

―最後の質問です.今後の音楽活動のプランはありますか?

 今いるここがすべてだよ.ただ音楽をプレイして,音楽のことだけを考える.同じように考えている色んなミュージシャンと出会って,一緒に音楽をやる.アイデアは無限大さ.

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リチャードと一緒に撮影した写真