Das-Association

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Richard Sinclair訪問旅行記1日目 in 2019

前回のあらすじ:飛行機の乗り継ぎがしんどい

 

とりあえずなんとか定刻通りバーリ駅についたものの,約束していた出口に行けば誰もいなくて途方にくれるかにょ.

まだ着いてないのかな?と思いしばらく待ってみましたが,一向にリチャードやヴィンチェンゾらしき人影は見えず段々不安になってきます.

一応,バーリ駅自体は思っていたより大きい駅で通りもそれなりに人通りはあるのですが,真冬の19時過ぎなので辺りは真っ暗だし,通りの壁にスプレーの落書きとかめっちゃ描いてあるし,アジア人ぽい人が全然いなくて通りを行く人にじろじろ見られるし,ぶっちゃけまあまあ怖い.

こんなときは迷わずヴィンチェンゾに電話.すぐに出てくれました!よかった!

「かにょです!今バーリ駅に着きました.どこにいますか?」

「やあかにょ!僕らもバーリ駅にいるよ.」

……あれ??

いやー……ここからが長かった.

多分30分くらいヴィンチェンゾと電話をかけあい,互いに「私はバーリ駅にいる」「僕らもバーリ駅にいる」的なやり取りを延々としていたんじゃないかと思います.

その電話ごしにかすかに聞こえるリチャードの声,高まる胸の鼓動.

しかしどこにいるのか,いっっっこうにわからん.

ヴィンチェンゾは生粋のイタリア人のためあまり英語が得意じゃないようで,「私のいるところからは○○というカフェが見えます!」とか色々言ったのですが,いまいち伝わっていないよう(かにょの英語が下手なのもあったかもしれない).

そうしていたずらに時が過ぎ,かにょの焦りと不安が最高潮に達しかけた頃…...!

 

……なんかあっちのほう人たくさん集まってるし明るいな……あれ?え?出口ってひょっとしてあっち??

 

完全に私のミスでした.なんか正式な出口じゃない変なところから出てしまっていたようです.ヴィンチェンゾ,リチャード,本当にごめんなさい……!!

それに気づいた瞬間猛ダッシュ.バーリ駅の看板がちゃんとかかった,本当の出入口にたどり着きました.で,リチャードたちはどこ……?と後ろを振り返った瞬間.

 

向こうから満面の笑みのリチャードがとことこ歩いてきました.

一瞬,長旅の疲れが私に見せた幻覚なのかと思った.ちゃんと現実だった.

 

リチャード(以下RS):遠いところを本当にお疲れ様、会えて嬉しいよ.わお,なんて冷たい手なんだ!

いきなり私の手を握り,矢継ぎ早にご挨拶.挨拶しようと思ってたこと全部吹っ飛んだ.

完全に思考停止してもごもごするかにょもそこそこに,「疲れてない?大丈夫?」と気遣ってくださるリチャード.優しい…….

後ろからヴィンチェンゾも登場.改めて初対面の挨拶を交わしました.

ちなみにその間もリチャードはずっと超笑顔で私の手を握ってました.

正直,あと5秒リチャードが長く私の手を握っていたら,心臓が破裂してバーリ駅で短い生涯を終えるところでした.

 

ホテルのチェックイン時間が迫っていることもあり,早速車に乗り込んでマルティーナ・フランカへ向かいます.運転はヴィンチェンゾで,助手席にリチャード,私は後部座席.

車内でリチャードはしょっちゅう後ろを振り返り,「Are you OK?」と様子を気にかけてくれました.

RS:長旅だったでしょ.疲れてるんじゃない?

私:実を言うと少し…….

RS:そりゃそうだよ!今日はとりあえずゆっくり休むことだけ考えて.ホテルに着いたらしっかり寝るといい.ところでアムステルダムを経由してきたんだって?他にはどこか経由したの?東京から来たんでしょ?

私:東京,北京,アムステルダム,ローマです.

北京!と感慨深そうに繰り返すリチャード.

RS:東京,北京,アムステルダム,ローマ!それは疲れているだろうからよく眠らなきゃね!

そんな大変な道のりをわざわざ来てくれたんだね~ととても嬉しそうな笑顔のリチャード.地上に舞い降りた天使がここにいます.

 

しばらくお互いに色々と質問しながら高速をドライブ.

リチャードの住む家の近辺では,なんと今日雪が降ったんだとか.

南イタリアは日本より暖かいのかと思っていました(リチャードの家はマルティーナ・フランカの中でも高地にあるため,余計寒いのだとか).

 

しばらくしてリチャードが「きみの名前はなんて発音するの?」と聞いてきました.

私の本名は欧米人には発音が難しいようです.そんなわけでヴィンチェンゾとそろってしばらく発音を練習.

「ところでヘザーは元気?」と聞くと,一瞬怪訝な顔をするリチャード.どうやら私の「ヘザー」の発音が悪かったようで,今度は私が発音を練習するはめになりました.ヘザーもとても元気にしているようでよかった.

 

高速をドライブしてもうすぐマルティーナ・フランカに着くかというとき,前方の山に巨大な星のイルミネーションが現れました.京都の大文字焼のような感じです.

私:あれは何ですか?

RS:クリスマスのイルミネーションさ.

私:(イタリアではまだクリスマスなのかな……もう29日だけど……)クリスマス・ホリデーっていつからいつまでなんですか?

RS:毎日だよ.僕にとっては毎日がクリスマスだからね!

楽しそうに大笑いするリチャード.

 

車に乗ってからのリチャードはずっと喋っているか,鼻歌を歌っています.

私と話していないときはヴィンチェンゾと話していました.が,先ほども書いたようにヴィンチェンゾは英語はあまりわからないようです(私とのメッセンジャーのやり取りも短文が基本でした)

聞いてみると,ヴィンチェンゾはリチャードの言っていることは1/4くらいしかわからないとのこと.ではリチャードにイタリア語を話せるのか聞くと「話せない」.

それでなんでこんなに仲いいの?

しかし不思議なことに,実際会話も通じてしっかり意思疎通できています.

 

そうこうしている間にマルティーナ・フランカの街に着きました.

先ほどもリチャードが言ったようにクリスマス・ホリデーの真っ只中のためか,街中イルミネーションでいっぱいです.中心部には巨大な光るクリスマスツリーが高々とそびえたっていました.

ザ・ヨーロッパのクリスマス」って感じの豪華な装飾で正直めちゃくちゃテンション上がりました.が,リチャードはこういう人工的なイルミネーションは好きじゃないようで,見かけると「horrible」と連発していました.

 

ヴィンチェンゾは私をホテルまで送ってくれただけでなく,到着した旨をオーナーに伝えるため電話までかけてくれました.イタリアの人は本当に皆親切です.

私の泊まったところはホテルというよりアパートの一室のような感じで,中にはベッドだけでなく調理器具なども一式そろっており,泊っている間そこで自由に過ごしていいというスタイルでした.

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オーナーの女性が鍵をもって部屋の前まで来てくれます.とても感じのいいきれいな方で,部屋の使い方を丁寧に説明してくれました.

リチャードとヴィンチェンゾも部屋に入ってきて,ニコニコと一緒に説明を聞いています.何この状況.

 

RS:彼女(かにょ)のために素敵な部屋をありがとう!彼女はわざわざ日本から僕に会いに来てくれたんだ,北京,アムステルダム,ローマと経由してね.僕がミュージシャンだから!

と物凄い勢いでオーナーに説明しているリチャード.ちょっとだけ困った顔をしているオーナー.

オーナーが帰っていくと,リチャードに「アルコールが欲しくないかい?」と声をかけられました.

 

RS:疲れているだろうから少しだけね.近くのバーに飲みに行こう.

 

 

三人で近くのガソリンスタンドに併設されたバーに入ります.

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ビールは棚から好きに自分で選ぶスタイルだったので,とりあえずハイネケンを選択.リチャードは「グッドチョイス」と言ってくれました.そんなリチャードの注文はブランデーとカプチーノ

私:コーヒーがお好きなんですか?

RS:いや,それほどでも.家ではあまり飲まないよ,ヘザーは毎日たくさん飲んでるけどね.

飲みながら日本に行ったときの思い出を語ってくれるリチャード.キャメルでの初来日は非常に印象深かったらしく,プロモーターの対応も観客の反応も何もかも素晴らしかったと話してくれます.

RS:それに航空会社もよかったね.JALは僕が一番好きな航空会社だよ.JALは最高さ!

私:私はブリティッシュエアウェイズも好きですよ.ロジャー・ウォーターズのツアーを見に,グラスゴーに行ったとき使ったんです.

RS:あ!去年ゴリツィアで会ったとき,きみがその話をしてたのを覚えてるよ!

たしかに,去年ゴリツィアでのリチャードのソロライブを見に行ったとき,その話をしました.そんな些細な話を覚えていてくれたなんてただただ感激.

 

私:ピンク・フロイドは好きですか?

RS:んーそれほどでもないかな.ああいう大きな会場でやるようなライブ・バンドにはあまり興味がなくてね.もう少し小さな会場で,聴く人一人一人に届けられるような音楽をやりたいと思っているから.

私:他のプログレッシブロック系のアーティストは?

RS:そもそも自分のことをプログレッシブロックのミュージシャンだと思ったことがないからね.

ここでふと店の音楽に耳を傾けるリチャード.イタリアかどうかはわからないけれど,どこかの国のポップソングが流れてきます.

RS:多くのミュージシャンは,こういう他のミュージシャンの音楽を聴いて音階がどうだの,テクニックがどうだのという話をするよね.でも僕にとって音楽というのはこういうものだけじゃないんだ.周りにあるものすべてがそうなんだよ.例えば赤ちゃんの泣き声だったり……そういった物音すべてが僕にとっては音楽なんだ.きみは何か楽器はやるの?

私:いいえ何も.

RS:そんな!どうして?やればいいのに!

私:あまり時間がないのと……私には難しすぎて.

RS:そんなことないよ,音楽はそんなに難しいものじゃないんだ.

「いいかい」とギターを弾くポーズをとるリチャード.

RS:音楽というのは,本当はシンプルなものなんだよ.ギターの音階は12個しかないでしょ?その12個の音によってつくられているものなんだ.難しいものじゃないんだよ.

「ね?」とまた楽しそうにニコニコ.

いつの間にか全員の飲み物も空になっており,バーを出ることになりました.

 

RS:明日またちゃんと会おう.それで明日なんだけど,僕の車の調子が悪くてね.昼の12時ちょうどには君を迎えに来られると思うよ.だから部屋の中で待っててくれ.外は寒いからね.

私の部屋に戻る道中,リチャードは何度も時間と場所を確認してくれました.

RS:今日のバーリ駅では色々と大変だったからね.お互い間違わないようしっかり決めておこう.12時に君のホテルで.いいね?ちなみに朝ごはんだけど,マルティーナ・フランカにはカフェがたくさんあるから困らないと思うよ.きみのホテルはメインストリートにも近いし,いいところを選んだね!それに最近は英語が通じる若い人も多いから,きみが英語で話しかければきっと相手も英語で返してくれると思う.だから心配しなくても大丈夫だよ!

 

部屋の前に着くと,リチャードは運転席にヴィンチェンゾを残し,わざわざ車から出てきてくれました.

「それじゃあまた明日に」と挨拶を交わして,私は部屋の前へ.

鍵を開けて振り返ると,まだリチャードが車の脇に立って見送ってくれています.

そして互いに笑顔で手を振り合ってから部屋の中に入り,初日はこうして終わったのでした.最後まで正気を保てていたのはわりと奇跡です.

 

 

以上,リチャードと出会った初日の記録でした.いかがでしたでしょうか?

次の日は昼からリチャードと会うことになりました.明日はその模様をお届けできたらと思います!

次回,ついにリチャードのご自宅に突撃訪問!……乞うご期待!!