Richard Sinclair訪問旅行記4日目 in 2019
前回のあらすじ:ピュアという概念の擬人化
2020年1月1日
この日も12:00に待ち合わせ.
リチャードは10分ほど遅れての登場でした.
車に乗り込んでさっそく「Happy New Year!」と挨拶します.リチャードも笑顔で「Happy New Year!昨日は疲れていたけど大丈夫だった?」と挨拶してくれました.その後車を発進させながら,対向車にも「Happy New Year!」と大声で呼びかけていた.
昨日の新年パーティーはとても楽しかったようで,ご機嫌なリチャードです.夜遅くまでやっていたようで,ヘザーは疲れて家で寝ているとのこと.「あなたも疲れているんじゃ……」と言ったら,「平気だよ~」と笑顔.
RS:新年の挨拶に,友達の家へ寄っていきたいんだけどいいかな?全員イタリア人で英語は分からないんだけどね,それでも僕らとても仲が良くて家族も同然なんだ!
もちろんいいですよ,ということでまずはその友人の家へ向かいます.
友人の家もリチャードの家と同じく街からは離れた場所にあるようで,ひたすら田舎道を走っていきました.途中,目の前に鉄塔がぽつんと一つだけ現れたので,何なのか聞いてみます.
RS:あれはテレビ,ラジオとかインターネットとかの電波塔だよ.
私:そういえばあなたの家にはテレビがないですね.普段見ないんですか?
RS:うん,一切見ない!ああいったものは大概くだらないし.テレビとかネットとか,そういったものは僕を楽しませないんだ.僕を夢中にさせるのはこの自然,この風景だよ.
リチャードの自然に対する愛は深い.
RS:それなのに人間の手によって自然は壊されていっているよね.本当によくないことだよ.もっとみんな地球の立場に立って考えなきゃ…….
環境破壊に怒りを示すリチャードの話を聞きながらしばらく走っていくと,やがてその友人の家に着きました.大きな家です.庭にふさふさした毛の大きな白い犬が一匹いました.リチャードが車をとめるやいなや近づいてきます.おりると私やリチャードのそばにまとわりついて離れない......イタリアの犬はどこの家も人懐っこいのか?
家に入ると,3人のイタリア人男性が出迎えてくれました.
リチャードが私のことを紹介してくれ,また3人のことも紹介してくれます.内1人はミュージシャンで,色んな楽器をやるそうです.よくリチャードともこの家でジャムっているとのこと.
3人にすすめられるがままにテーブルにつき,コーヒー(エスプレッソ)を入れてもらいました.
テーブルの上にピーナッツが入った籠が置いてあり,すすめられたので殻を向いていると「ピーナッツは日本語で何というのか?」と話しかけられました.
私:(ぶっちゃけピーナッツで十分通じるけど……)落花生です.
イタリア語で何というかも聞いたのですが,失念してしまいました.
ちなみにリチャードが言う通り,3人は全く英語がわかりませんでした.
そのためここでの会話はほぼすべて3人がイタリア語で話し,リチャードが英語でそれを私に伝え,私の答えをリチャードがイタリア語と英語のミックスで3人に返すという,カオスな状況のもと行われていました(あのリチャード・シンクレアに通訳させてしまうとは……).
リチャードは前日同様,この状況を大いに楽しんでいるようです.
RS:ねえねえ,この色は日本語で何て言うの?(テーブルクロスを指しながら)
私:赤
RS:あか!ちなみにイタリア語ではロッソだよ.
と言ってけらけら笑っています.
その後,せっかくだからジャムろう,とリチャードと友人の1人が玄関に向かいました.入ってすぐのところが広いホールのようになっており,そこにピアノやギター,ダブルベースなどが置いてあります.
外にもドラムが置いてありました.先に外に出たリチャードが,戯れに手でドラムをポコポコたたいています.友人にスティックを渡されそうになると,苦笑してやめていました.
その後中に戻って,ギターを抱えるリチャード.
マジでこのときリチャードの空気が変わりました.
変な言い方ですが「我々の知っているリチャード」になったというか,ミュージシャンとしてのリチャードがこのときはっきり現れた感じでした.
これまでのリチャードの挙動があまりに天使すぎて,正直「私と一緒にいるのはピュアを司る神が人間界に送り込んだ使いか何かかな?」とか思い始めていたかにょでしたが,「あ,この人リチャード・シンクレアだわ.私の好きなCaravanとかCamelとかHatfield and the Northにいたあのリチャード・シンクレアなんだわ.」ってしみじみ実感した瞬間でした.
リチャードの友人はダブルベースを弾き,しばらく二人でとりとめもなく演奏を続けていきます.リチャードはギターを弾きながら,そこに「ラララ~」とあの優しい声で即興のメロディをのせていっていました.
その友人が色んな楽器をやるというのは本当で,しばらくダブルベースを弾いたあと今度は別のギターを取り出して弾きだしました.その次はピアノ.そしてまたギターへ,といった具合です.リチャードはずっとギターでした.
友人が何を弾いてもそこにリチャードのギターと声が優しく溶け合い,ゆったりとした暖かい音楽となって空間を満たしていく幸せな時間でした.
途中,ふと演奏をやめたリチャードが「ほれ」と茶目っ気たっぷりの顔で私にギターを渡してきたので,思わず「無理です」と日本語で即答すると笑ってギターをとって再び弾いていました.
そうこうするうちにさらに客人がやってきました.男性が3人に,とても美人で若い女性が一人.どういう関係性なのかはわかりませんでしたが,男性のうちの1人はリチャード曰くダブルベースの名手とのこと.
女性はこの中で唯一英語が話せるイタリア人ということで,彼女とキッチンのほうに呼ばれてしばらくおしゃべりをしました.彼女の住んでいるところはマルティーナ・フランカではないそうです(どこかは聞いたけどよくわからなかった.海岸沿いの街らしい).とても気さくな方で,「とてもいいところだから今度イタリアに来るときは是非そちらにも来てね!ぜひ案内したい」と言ってくれました.
そんな話をしていると,リチャードたちが演奏を再開したようだったのでまた聴きに行きます.例のダブルベースの人が加わってトリオになっていました.
リチャードは私が戻ってきたことなどお構いなしで演奏に没頭しています.本当に本当に音楽が好きなんだな…….
「Caravanにいたときは一日中音楽のことをやっている,というわけにはいかなかったけど,Hatfield and the Northではそれができた.それがとてもよかった.」とHatwise Choiceのブックレットにも書いてありましたが,改めてその言葉には何の誇張もないのだと実感しました.放っとけばこのまま夜までやり続ける勢いです.
一旦演奏が中断すると,ずっとダブルベースを弾いていた方が笑いながら「コードがコロコロ変わるからついていくのが大変だ.」というようなことをリチャードに言っていました.多分.うまく聞き取れなかったのであまり自信はない.
その後その人は皆と話にキッチンへ.リチャードは彼のダブルベースをとても褒めていました.
その後もどれくらいジャムっていたのか,昼に来たはずなのに帰るころには17時くらいになっていました(4時間くらいやってたんじゃないかな).
友人たちに厚くお礼を言って,リチャードと再び車に乗ります.
空はとてもきれいな夕焼けでした.地平線まで続くピンク色の夕陽が,薄暗くなりはじめた草原と田舎道を幻想的に染め上げていきます.まさに「グレイとピンクの地」そのものでした.
私:In the Land of Grey and Pinkですね.
と話しかけると,「Yeah!」と嬉しそうなリチャード.
RS:僕はこの風景が大好きなんだ.時間とともに変わっていく,この美しい景色がね.
リチャードの家に着くとヘザーが笑顔で迎えてくれました.早速夕飯の準備が始まります.今日の夕飯はフィッシュ&チップスとのこと!リチャードに「魚ばかりだけどきみは大丈夫かい?」と聞かれたので,オールOKと答えます.
またヘザーとお話をしながら料理ができるのを待ちます.
ヘザーがオランダに住んでいた頃の話を少ししてくれました.フリースラントというところに住んでいたのだとか.その頃の移動手段はもっぱら自転車だったそうです.
ちなみにトゥルーロの入り口にアフリカっぽいデザインの謎の人型の像があったのですが,それはオランダにいるときにモロッコ製品専門店で買ったのだとか.情報量が多いな.
大きさとしては平均的な人の身長くらいあって,目を閉じて耳をふさいでいます.首から下の部分は空洞.何に使うのかずっと謎だったのでこの日ようやく二人に聞いてみたら,CDラックだとのこと!
「ほらこうして使うんだよ~」とリチャードが実際CDを持ってきて見せてくれました.よく見れば空洞の部分に溝がたくさん彫ってあって,CDケースが水平におさまるようになっています.
RS:この像はうるさ~い!ってやってるんだ.耳をふさいでるでしょ.No Music~!ってね!
像の真似をして,目を閉じて耳をふさぎながらはしゃぐリチャード.
その後キッチンで機嫌よくフィッシュ&チップスを作っていくリチャード.付け合わせはグリーンピースのゆでたので,バターと合えながら「Love & Peace……Fish & Chips……」とジョークを飛ばしています.
リチャードの作るフィッシュ&チップスは一般的なイメージのものと少し違っていて,衣自体に味がついていました.唐揚げのような感じです.そう伝えましたが,あまりピンと来ていないようでした.唐揚げは食べたことがないらしい.
食事を始めると,リチャードはセーターを脱いでTシャツ一枚になっていました.寒くないのか.ちなみにこの日も,前日私がプレゼントした浮世絵Tシャツでした.
食べながら,何かの折にフィル・ミラーの話になりました.確かヘザーがズボン丈の話をしていたので,そこから私が「For Phil Miller's Trousersですね(笑)」とか言ってフィルの話を振ったんだった気がする.リチャードは「フィルのズボンは大きいから!」と笑っていました.
私:フィルとあなた,どちらのほうが背は高かったんですか?
RS:うーんどっちだろう……多分フィルじゃないかな.でも彼はステージ上でいつも猫背だったから,僕はピンと背筋を伸ばすようにしていたんだよ.
と得意げに胸をはるリチャード.
このときHatfield and the Northの話にもなったため,私が「Hatfield and the Northの曲全部大好きです!」と伝えたら,リチャードがめちゃくちゃ嬉しそうな顔で「僕もだよ!」と言ってくれました.一生の思い出です.
食後に,リチャードが硬貨のたくさんつまった壜とトレイを持ってきました.トレイの上にガラガラと硬貨をぶちまけ,「この中から日本円を探して!」とのご指示.
言われるがままに日本円だけをピックアップしてよけていきました.フランとか,今は使われなくなった硬貨もいくつもあって面白かったです.それだけリチャードが色んな国を訪れているということなんだな,と一人でしみじみ.
見つけた日本円は全部で600円ほどになりました.リチャードに「選別終わりましたよ」と声をかけると,「じゃ,それあげるよ.」
……?????
私:いやいやいやもらえないですよ!!!!!
RS:どうして?その硬貨もう日本じゃ使えない?使えないならわざわざ持ってかなくていいけど.
私:使えますけど,これはあなたの思い出になるものでは?大切なものでしょう.
RS:まさか!それはただのお金だし何の記念にもならないよ.僕にとってはこっちが思い出だ.
と私のあげたTシャツの襟元をひっぱるリチャード.
RS:僕が持っていてもそのお金は使う機会もないのだし……使わないものを持っていてもしょうがないよ.君は使うんだろう?だからきみにあげるよ.
ひええ……
というわけで600円ほどをリチャードからもらって帰ってきました.ちなみにもったいなさすぎて使えていません.
その後日本にいる私の友人に向けてリチャードからサインをいただきました.
どうもリチャードは人の名前を覚えるのは恐ろしく苦手なようですが(私の名前も滞在中何度か確認されました.日本人の名前にはなじみがないから余計かもしれない),決してその人自身のことを覚えていないわけではありません.
私が友人のスペルをリチャードに見せると,「あ,この名前見たことある!」と前の来日時にその方がライヴに来ていて,話したこともはっきり覚えていました.
このように個人個人とのエピソードを凄く覚えていてくれます.夕食時にヘザーと今回の旅程について話していたときも,横から「彼女,ブリティッシュエアウェイズが好きなんだって!」と言ってくれました.初日に私が話した,そんな些細なことまで覚えてくれているなんて……
帰り際に,ヘザーがリチャードとの2ショット写真を撮ってくれました.その後は3人での写真撮影も行います.
リチャードとは明日も会う予定ですが,ヘザーとは今日が最後なので厚くお別れの言葉を交わしました.その後はこれまでのように,リチャードが車でホテルまで送ってくれます.
私が車を降りると,リチャードも毎度のように車から降りてわざわざおやすみを言ってくれました.
RS:今日はまださよならじゃないね,また明日も会うから.
とニコニコ.
この日も,やっぱり私が部屋の前にたどり着くまで見ていてくれました.
いよいよ明日は最終日!(といってもかにょが帰るだけですが)
果たして無事帰国できるのでしょうか……乞うご期待!