Das-Association

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Richard Sinclair訪問旅行記3日目 in 2019

前回のあらすじ:シンクレア家の犬がかわいい

 

2019年12月31日

また7:00くらいに起床.イタリアに来てから朝が強い.

前日のリベンジとして,朝ごはんを食べがてら街を探索することにしました.

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この日はとても天気がよく,寒さも幾分やわらぎテンションも上がってきたのでやや長めに散歩してきました.

途中,見かけたスーパーマーケットでリチャードとヘザーへのお土産にビールを購入.3瓶1セットで3ユーロほど!イタリアはいいとこですね.

 

そのまま部屋に戻りベッドの上でぼーっとしていると,約束の10分くらい前にドアをリズミカルにノックされて落ちそうになりました.大急ぎでドアを開けに行けば,リチャードが笑顔で立っています.

 

RS:やあ!昨日は12:00ちょうどだったからね.今日は早めに来てみたよ!今日は昨日と違ってとてもいい天気だね.ハッピーデーだ!ヘザーは家にいるよ.せっかくだからきみを連れて海岸までドライヴしに行こうと思って.すごくきれいな風景だから,ぜひ見てほしいんだ.

 

かにょイタリアに来てから何度目になるかわからない生命の危機.深呼吸をすることでなんとか事なきを得ます.

 

リチャードと一緒に車に乗り込み,ドライヴへ出発です!

途中の交差点のようなところで,あまりにも多い車と荒い運転のドライバーたちに,リチャードがため息をついていました.

 

RS:これだけはイタリアのよくないところだね.イタリアンドライバーだけは.

 

リチャードの言う通り,イタリアはめちゃくちゃ車が多い上に運転がはてしなく荒いです.おまけに左ハンドルときているのでカーブのときは本当に怖かった.リチャードの運転は普通ですが,他のドライバーたちの無茶な運転に思わず悲鳴をあげたことも何度かありました.

 

運転をしながらずっと喋りつづけるリチャード.

RS:イタリアは食べ物も風景も本当にいいところなんだよね.今僕が住んでいるところは周りに人が少なくて静かで,本当に素晴らしいところだよ.それからイタリアは建物も素晴らしいよね.例えばこういう古い建物とかね.

 

道の左側にあるレンガ造りの廃屋を指します.次に,ちょうど反対側にある現代的な新築のビルを見て顔をしかめるリチャード.

 

RS:こっちはひどいね.僕はこういう新しいビルより,あっちの古いビルのほうが好きだな.

 

大工として働いていたこともあるくらいだし,やはり建築関係には興味が強いのだろうか……と思って話を振ってみます.

 

私:リフォームとかそういうこともお好きなんですか?

RS:うん,リフォームしたり物を作ったりすることも好きだし,料理も好きだよ.僕にとってそれらは音楽をするのと同じくらい自然なことだね.僕がそうやって何かをすることで人々が喜んでくれるなら,僕は嬉しいんだ.

 

そのまま田舎道を突っ走るリチャードとかにょ.

周りに家がほとんどなく,見晴らしのいい一本道でとても気持ちがよかったです.

途中,丘のようになっているところでリチャードがわざわざ車を停めてくれました.眼下に街の景色が広がり素晴らしい眺めです!

 

RS:これを見てほしかったんだ!イタリアの風景はきれいでしょ?あっちの方角がマサフェラだ.すぐ近くに海もあるからよく泳ぎに行くんだよ.

 

しばらく二人で景色を眺めていましたが,その後また車を発進させ,マサフェラに向かいます.街に入ると,大きなスーパーの駐車場でリチャードが一旦車を停めました.

RS:ちょっと買い物をしてくるよ.悪いけど,エンジンの調子が悪くて一度止めるとつかなくなるかもしれないんだ.このままかけっぱなしにしておきたいから,車の中で待っててもらっていいかい?すぐ戻ってくるから.

というわけで,買い物をしに颯爽とスーパーへ入っていくリチャード(というかそれ車の調子悪すぎやせんか……修理とか出さなくて大丈夫なんか……).ほどなくして大量のパンや油,サーモンを手に戻ってきました.

RS:今日のお昼はサーモンだよ!サーモンは平気?

私:好きなので大丈夫です!リチャードは肉より魚のほうが好きなんですか?

RS:そうだね.ベジタリアンってわけじゃないけど,魚のほうがよく食べるよ.肉を食べるのはうちの犬のほうが多いね!

と大笑い.確かに前の日に買ってた量凄かったしな.

元来た道を戻りながら,今度はリチャードの家へ向かいます.

 

RS:イタリアは物価が安いんだよね.お酒もタバコもとても安い.

私:それは私も思いました.ビールとかとても安いですよね.

RS:日本は物価も高いし,家賃も高いから住むのは大変だよね.そういえばハットフィールドのころ,デイヴ・スチュワートはお金の計算にとても細かくて……イギリスのお金はポンドとかペンスなんだ.イタリアはユーロを使っているけど,ユーロはよくないよね.僕はあまり好きじゃないな.貨幣というのはその国の文化だよね.いろんなカラーがあっていろんなお金があるんだ.ユーロはそれをすべて均一化してしまっている.アイデンティティの崩壊だよ.

憂いを帯びたため息をつくリチャード.

RS:で,何の話をしていたんだっけ?

私:デイヴ・スチュワートが…….

RS:ああそうそう!デイヴね!彼はとってもお金の計算に細かくって,何ペンスってとこまできっちり計算するんだ.それはきっちりね.ところで君は楽器はやらないと言っていたけど,歌ったりはしないの?

私:歌わないですね.

RS:どうして?歌えばいいのに!簡単だよ.

私:そんなにいい歌声でもないので…….

RS:またまた,何言ってるんだ!

と優しく笑うリチャード.「ほら聴いて!」と車の窓を開ける.青い空に緑の畑,冷たいけれど気持ちのいい風が入ってきます.

RS:この色も,においも,風の音も……すべてが音楽なんだよ.すべての人やものが美しい声を持ってるんだ.きみだって歌えるさ.難しく考える必要はないんだよ.

 

そんな話をしている間にリチャードの家に着きました.

昨日も門が開くのは見ているけれど,改めてリチャードは「ほらこれ自動なんだよ~すごいでしょ!」とはしゃいでいます.「ピュア」という概念を擬人化したらこうなるんだろうな.

 

家に入るとヘザーが笑顔で挨拶してくれました.昨日と同じようにこれからリチャードがご飯を作ってくれるというので,ヘザーと2人座って待っていることに.

 

お手伝いすることもなさそうだしあんまり話しかけては邪魔かなとじっとしていたら,ヘザーが自身の陶芸作品を見せてくれました.

植物を植えるプランターや,セレブの風呂場にあるような口からお湯が出てくるアレなどで,どれも妖精の顔のデザインになっています.イタリアに来てからではなく,カンタベリーにいたときに作ったものとのこと.ヘザーはカンタベリー美術大学で陶磁器を勉強していたそうですカンタベリーは奥さんやガールフレンドが美術方面に強いパターンがわりと多い気がする)

一緒にヘザーの作品を鑑賞していると,リチャードが別の作品を持って現れました.

RS:これひょっとしてきみは知ってるんじゃない?

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Hugh Hopper Bandのジャケットのやつだ!思わず写真に撮らせてもらいました.

ヘザーにどうしてこれを作ることになったのか聞いたら,ヒューから直々に頼まれたそうです.リチャードは,「ヘザーは僕のお気に入りのアーティストの一人だよ!」と言っていました.陶磁器が有名な日本にヘザーも連れていきたいという想いが強いそうです(ヘザー自身は日本に行ったことは一度もないのだとか)

リチャードの日本愛は凄まじく,日本に行ったときに買ったという浮世絵のコースターや,銭形の栓抜きなども見せてもらいました.栓抜きには漢字が彫ってあったので何という意味か聞かれたのですが,私の英語が拙いのと,日本語も拙いので書いてある漢字が何かわからず説明できませんでした.ポンコツの擬人化です.

 

ここで二人に日本で買ってきたお土産を渡しました.どちらもTシャツで,リチャードには浮世絵が描かれたものを,ヘザーには和風の花柄がプリントされたものをプレゼント.二人ともとても喜んでくれました.

リチャードのTシャツには金閣寺が描かれていたのですが,それを見て「これは京都のお寺だよね?たしかキンカク……?」と呟いています.さすがすぎる…….

 

「半袖だから今の時期は寒いし,夏に着てくださいね.」と言ったのですが,大喜びのリチャードは早速自室に戻って着替えてくれました(!).

Tシャツを着たあと,一人ノリノリで踊るリチャード.ピュアの権化か?かにょはもう息の吸い方すら忘れてしまって瀕死ですよ.

 

そのうちにサーモンの焼けるいい匂いがしてきました!ハーブとかの香草やしょうがと一緒に焼いているようです.

キッチンに立つリチャードに「Let’s Eat, Real Soon!」と声をかけたら,一瞬きょとんとした後すかさず「I’m vitamin-enriched~♪」と歌い出してくれました.

一節だけで終わってしまったので,後をひきとって「No artificial processing~♪」と口ずさんだらなんとそれにあわせて歌ってくれた……!そして私を見てにっこりするリチャード.

RS:ほら,歌えるじゃない!

 

焼きあがったサーモンを昨日と同じくあずきごはんとともにいただきます.

飲み物は私が買ってきたビール.例の銭形の栓抜きで開けました.銘柄も何もわからず買ったのですが,リチャードの好きな銘柄だったようでよかった!モレッティというビールでした)

 

この日の料理もとても美味しかったです.

リチャードの料理は全体的に味付けがそんなに濃くなく素材の旨味を活かすタイプなので,イタリアの食材がそれだけ美味しいというのもあるでしょう.

ちなみにリチャードの魚の食べ方はとてもきれいでした.私ははっきり言って苦手なので恥ずかしかった……魚食べるの練習しなきゃな…….

 

そして食後はリチャードがインタビューの時間をとってくれました!

片付けが終わった後,二人で再び向かい合ってテーブルにつきます.ヘザーは気を使って別室に移動してくれました.

そんなわけでインタビューした結果がこちらの記事です!しつこいけどこちらにも再掲させてください(笑)!

kanyo-rsqp.hatenablog.com

 

インタビューがひと段落ついたとき,おもむろにリチャードがギターを持ってきました.

RS:きみは作曲のこととかについて色々聞いてきたけど,音楽を言葉で説明するのは難しいんだよね.だから実際に見てもらった方がいいかと思って.

 

……!?!?!?

 

まさかのリチャード独演会の始まりです.

RS:僕はマイナーからメジャーにいくほうが好きなんだ.よりハッピーな方へ向かうのがね.

と言いながらOut Of Shadows, Halfway Between Heaven And Earth, Keep On Caring, Licks For The Ladiesを歌ってくれました.そして初めて聴く新曲も少しだけ(!?).

リチャードによると,Keep On Caringはリチャードが息子さんに初めて教えた歌なんだそうです.

RS:僕が子どものとき,父がギターを抱える僕を後ろから抱えて,一緒に弾きながら歌ってくれたんだ.”She'll be comin' 'round the mountain when she comes♪”※ってね!この歌は父が僕に教えてくれた歌なんだ.だから僕も自分の息子に歌を教えようと思って.Keep On Caringは音程の上下動が少なくて難しくないでしょ.

※この歌は「あの子が山にやってくる」というアメリカのフォークソングです.

 

しばらくリチャードが演奏し,合間に色々と喋り,また演奏し……という時間が続きます.

とりとめもない話をたくさんしていたので,どういう流れでその話になったかまで覚えきれていないのですが,好きなミュージシャンの話やカンタベリーの話などをしていました.

リチャード曰く,「皆よくお気に入りのミュージシャンを聞いてくるけど,結局は自分が今までに共演してきたミュージシャンになるんだよね~」とのこと.

 

RS:人を楽しませる音楽のほうが好きなんだ.自分だけで完結している音楽はあまり好きじゃないんだよ.父がいつも「人を喜ばせることをしなさい」と言っていたんだ.だから僕は音楽をやるし,料理やその他色んなことも同じ理由からやるのさ.

 

カンタベリーについては,思い切って「カンタベリー・シーンという呼称,括られ方についてどう思いますか?」と聞いたところ,

RS:僕はシーンの中でも本当に根っからのカンタベリー出身だし,家族もずっとカンタベリーに住んでいた.そこに皆が集まってきて一緒に音楽をやって……そしてその皆というのは僕の好きなミュージシャンたちだ.だからそれを「カンタベリー」と呼ばれることは僕にとってはOKだよ!

と笑顔で答えてくれました.さらに,

RS:僕のいたバンド……CaravanもCamelもCから始まるし,CanterburyもCから始まる.そしてCといえばCコードだ!だから万事OKさ(笑)

とけらけら笑っていました.

 

前の記録でも書きましたが,リチャードのお父さんに対する敬愛はとても深く,この後お父さんがいたバンドのロゴマークの看板を見せてもらったりしました.

大工仕事を行う部屋も案内してもらい,そこでも「これは父が使ってた道具だよ~」と色々と持ってくるリチャード.本当に物持ちが良すぎる.私はすぐ物を失くすし使わないものはバンバン捨ててしまう主義なので,ただただ尊敬で舌を巻くばかりでした.

ちなみに大工道具を入れている箱には全部ラベルが貼ってあって何が入っているか書いてあったのですが(そういうところもまめだな~),リチャードがサインするときに使う半円の印がそこにも使ってある!

リチャードによると

RS:これは僕のにっこりマークだよ~(笑)

とのこと.どうやったらこんな無邪気な人格に育つんですか??ここまでくるともはや神が地上に与え給うた人類の希望では.この困難な世の中にあって人類が必要としているのはリチャード・シンクレアですよ(個人の意見です)

 

その後は恒例の犬猫たちへの餌やりをお手伝いさせていただきました.

昨日買った(と思われる)肉を野菜と一緒に煮込んだ鍋をいくつも運んでくるリチャード.めちゃくちゃ手間かけてるな……というかこれ,普段私が日本で食べてる食事よりちゃんとしてるのでは.

それをどんどんボウルに開けていき,犬たちを外に出して食べさせます.

外に出る前に,リチャードにブランデーを手渡されました.

 

RS:外はめちゃくちゃ寒いからね.これ飲むとあったまるよ.Camelにいたとき,デイヴ(シンクレア)が海岸沿いの街にライヴに行くとよく海で泳いでいたんだけど……すごく寒い時でもブランデーを飲んであったまってから泳ぎに行くんだ!アンディ・ラティマ―とか他のメンバーは皆信じられないって顔してたよ.

 

何それ想像するとめちゃくちゃ面白い.

 

犬猫たちへの餌やりを無事終えた頃,初日に駅まで迎えに来てくれたヴィンチェンゾと,さらにその友人が連れ立ってやってきました.

今日は大晦日のため,これから新年パーティーをするのだとか.

君もぜひ一緒に,とリチャードに言ってもらえてめちゃくちゃ出席したかったのですが,さすがにここでどっと疲れが噴出していまい……いてもそのまま寝てしまいそうだったので,泣く泣く辞退してホテルまで送ってもらいました.出たかった......マジで.......

 

なお,リチャードはイギリス人,イタリア人,日本人と多国籍が一堂に会している状況を大いに気に入ったようです.突然,「君の年齢は?」と聞かれたので答えようとしたら

RS:違う違う!君の国の言葉で,日本語で答えて!

私:??二十六歳です.

RS:ニジュウロクサイデス!

ヴィンチェンゾたちも一緒に復唱して,皆で楽しそうに笑っています.英語,イタリア語,日本語が飛び交うカオスな状況を心底楽しんでいるようでした(でもこれ,26をニジュウロクサイデスと間違えて覚えてしまったかもしれない......「です」は要らんかったかな)

 

せっかくリチャードたちが楽しそうなので本当にもっといたかったのですが,疲労には打ち勝てず,ホテルに戻ったかにょ.

そのままベッドにダイブしてぐっすり眠ったのでした.ただ年越しの瞬間に花火を挙げて街中の人でウェイウェイお祝いしていたようで,その音で一回起こされました.

 

明日はリチャードのお友達の家に伺って一緒に新年をお祝いします!乞うご期待!