Richard Sinclair訪問旅行記2日目 in 2019
前回のあらすじ:リチャードとバーに行って音楽の話をした
2019年12月30日
朝7:00頃に起床.
疲れで早々と就寝したためか,すっきりと目覚めることができました.
せっかくなのでリチャードが来てくれるまでの間,マルティーナ・フランカの街を探索することにします.が,あいにくこの日は天気が悪く,外は信じられないくらい寒かったので,近くのカフェで朝食を済ますとほとんど部屋に引きこもっていました.
南イタリアってもっとあったかいと思ってたよ…....ガチで東京よりはるかに寒かったです.
あとリチャードは「英語通じるから大丈夫!」って言ってくれたけど,全然通じなくて心折れかけました(私の英語が下手くそという要因も大いにある).「This one, please!」とかですら通じないので,どの店でもひたすらジェスチャーで店員さんとやり取りしていた.コミュ力が50ポイントくらい上がった気がします.
リチャードは部屋にいていいと言ってくれましたが,さすがに申し訳ないので5分前に外に出ます.
部屋の前の道路わきに立っているとほどなくしてクラクションの音が聞こえ,リチャードとヘザーが笑顔で手を振っているのが見えました!
後部座席に乗り込んで早速ヘザーにご挨拶.
HS:久しぶりね!昨日はよく眠れた?
リチャードも運転席から笑顔で振り返ってくれます.
RS:やあ,昨日はぐっすり眠れた?うん,よく眠れたみたいだね,昨日よりずっといい顔をしてるよ!
上にも書きましたが,あまりにも寒いのでこれが南イタリアの通常状態なのかと聞いたら,二人そろって「そうだ」との答え.少しだけ絶望を感じます.
そしてそのまま,リチャードの家まで連れて行ってもらうことに.ご飯はリチャードの家で食べさせてもらえるとのこと!つくづく思いますけど正気保ったままイタリアから帰ってこれたの本当に奇跡.
リチャードの家は中心街からさらに離れた場所にあるとのことで,街から出て周りにほとんど何もない田舎道を走っていきます.その途中にぽつぽつと他の家が点在しているのが見えました.
しばらくしてリチャードが「ほらトゥルーロだよ!」と声をかけてくれました.
窓の外にとんがり帽子形の屋根をした石造りの家が見えます.写真で見た通りのかわいらしい外見と,のどかな田舎の風景の組み合わせが素晴らしい.
しばらく窓の景色に見入っていたところ,ついにリチャードのお家に着きました!
本当に周りには何もありません.一番近い家(トゥルーロ)はどこなんだろう,と見渡してもよくわからなかったレベルです.
家の前には大きな白い鉄製の門があり,車に乗ったままどうやって開けるのかと思っていたら,なんと自動で開きました!ハイテクだ.
まっすぐ進んで家の前に車をとめるリチャード.リチャードの家も他の家と同様トゥルーロなのですが,この位置からではとんがり帽子屋根はあまりよく見えませんでした.
家からは既に犬の鳴き声がたくさん聞こえてきています(※リチャードはこれまでの来日時でも言及しているように,犬と猫をたくさん飼っています).
玄関の横に犬用のスペースを設けているらしく,金網ごしに犬たちがわらわら集まっているのが見えました.見たところ全部同じ犬種です.
ヘザーに案内され,家の中に入ります.入ってすぐ通路があり,その横の小部屋が大工仕事をするスペースのようです.部屋の中にも通路にも大量の工具や木材が置いてありました.その通路の先にもう一つドアがあって,そこを開けると居住スペースです.
リチャードが奥の扉を開けた瞬間,たくさんの犬たちが私めがけてどっと押し寄せてきました.めちゃくちゃかわいい.もう,ちぎれるんじゃないかってくらい尻尾ふってて人懐っこくて本当にかわいかったです……絶対飼い主の影響でしょ.
私:とてもフレンドリーですね!何という犬種ですか?
HS:ポインターよ.狩猟犬で,こうして獲物に狙いを定めるからポインターという名前なの.
と,両手で直線矢印の形をつくるヘザー.
RS:狩りには必要ないから尻尾を切ることもあるんだけど,僕はそんなことしてないよ.
近くにいた犬の尻尾にふれて微笑むリチャード.
ちなみに最近子犬が10匹生まれたばかりらしく,見せてもらいました.
部屋の端にストーブが置かれた空間があり,家の中で一番暖かくなっているのですが,そこに子犬用のスペースが2か所作ってありました.2つあるのは掃除するときに移動させるためのようです.
RS:今は寝ているみたいだから静かでよかったけど,起きると鳴き声がすごいんだ.
私:ちなみに今,家には何匹の犬が?
RS:全部で22匹かな.家の中にいるのが5匹,外に7匹,それに子犬10匹もいれて22匹だ.それから猫も6匹いるよ.
私:動物がお好きなんですか?とてもたくさんの犬と猫を飼っているので.
RS:うん,もちろん好きだよ.まあでも,これはさすがに多すぎるけどね……(苦笑)
二人に案内されてリビングスペースへ.
そばにあるソファにはやはり犬たちが寝そべっていて,もはや彼ら占有のスペースと化していました.
とにかくこの犬たちが大変にフレンドリーで,座ってヘザーと話をしている間も入れ替わり立ち代わりやってきて膝の上に鼻をのせてきました.
なでると気持ちよさそうに目を閉じていてめちゃくちゃかわいい…….ちっとも噛みつかないし吠えもしません.たまに私の膝に手をかけてのぼろうとすることもありましたが,リチャードがたしなめるとやめていました(別にいいのに).きちんと教育されてる感が凄い.
リチャード・シンクレア……ミュージシャンでありながらスーパーブリーダーとしての才能も発揮する男…….
リチャードにコーヒーを入れてもらい,ヘザーにすすめられてグルテンフリーのカップケーキを食べます(ヘザーはグルテンフリーのものしか食べないそうです).
HS:マルティーナ・フランカの街は歩いてみた?
私:少しだけ.カフェに行ってみたんですが,その,コーヒーが…….私はコーヒーを頼んだんですけど,出てきたのが…….
HS:ああ,とっても小さいカップで出てくるでしょ?エスプレッソね.イタリアではコーヒーというとあれになるの.
RS:普通のコーヒーを飲みたかったら,カプチーノって頼むといいよ.昨日僕がそうしたようにね!
ヘザーはとても聞き上手です.私のつたない英語を焦れずに一語一語しっかり聞き,言葉につまると文脈から意図を汲んで会話をつなげてくれます.
一方でリチャードはとても早口で,自分がずっと喋っていることのほうが多いです.でも,こちらから話しかけるとしっかり聞いてくれます.私は英語を話すのは正直言って苦手なので,発音が悪くて怪訝な顔をされることも何度かありましたが,そのたびに「Excuse me?」もしくは「Sorry?」と丁寧に聞き返してくれました(「What?」とか絶対言わない).それは誰に対しても同様なようで,ヘザーと会話しているときも聞き返すときは常に「Excuse me?」でした.
リチャードの英語は発音だけでなく,言葉自体もとてもきれいです.
私がヘザーと話している間に,リチャードはキッチンで料理を始めようとしていました.お手伝いしましょうか,と声をかけましたが大丈夫とのこと.
私:料理はいつもリチャードが?
RS:うん,いつも僕がするんだ.毎日,毎朝,毎昼,毎晩,いつでもね!僕は料理が大好きなんだよ.
調理台の半分くらいが色んな調味料と調理器具で占拠されていたので,じっとながめていたらリチャードが色々説明してくれました.
RS:これは日本の醤油だよ.僕は日本料理が好きなんだ.こっちは梅干しペースト.イタリアではこれがなかなか高くて…….この鍋に入ってる豆は小豆.僕が豆の中で一番好きなのが小豆なんだ!今日は天ぷらを作ろうと思ってるよ.
醤油にいたっては1種類だけでなく,たまりやかえしなど複数種類ありました.おそらく日本の調味料だけでも,私の家よりシンクレア家のほうがはるかに品揃え豊富と思われます.
突然,「これはなにかわかる?」とリチャードに筒型のケースをわたされました.においをかいでみろというのでそうしたところ,おぼえのある香ばしいにおいがたちのぼりますが,何か思い出せません.首をかしげていると,リチャードに日本語で「ごましお」と言われました.さすが.
リチャードが料理をしている傍ら,ヘザーがパソコンを持ってきてCDをかけてくれました.
映像付きで,リチャード,アンディ・ワード,リック・ビドルフの3人のライブ音源.Caravan Of Dreamsだ!93年頃だろうか.
見たことのない映像だったので聞いたところ,ファンが撮影したのを編集してプレゼントしてくれたもののようです.デイヴさんの姿はなかったのですが,リチャードによるとCaravanに戻っていたか何かでいなかったのだとか.
私:アンディ・ワードさんとは連絡をとりあってますか?
RS:いや,彼はアルコールの飲みすぎで音楽活動からはすっかり退いてしまって…….連絡もとってないんだ.とても残念だよ.彼は素晴らしいドラマーなのに.
本棚にロバート・ワイアットのDifferent Every Timeがあったので見せてもらいます.
ロバートとは連絡を取り合っているのか聞いたところ,ヘザーがたまにメールをしているとのこと.ただ0日目の記録にも書きましたが,リチャードたちの住むところはネット環境がとても悪い上にパソコンの調子もよくないそうです.おかげでメールチェックが全然できないと言っていました.
リチャードが料理を作りながらトゥルーロの説明もしてくれます.
RS:トゥルーロはドーム型になっているから,この中で歌うと声が響いてとてもいい感じなんだ.冬はとても冷えるけど.だからストーブを二つ,常につけている.そこと(子犬のいる部屋),もう一つ別の部屋にね.それで家全体を暖かくしているんだ.
リチャードの言う通り,ストーブ以外の暖房器具は一切見当たりませんでしたが,それでも十分トゥルーロ内は暖かったです.
RS:ここに来て最初のうちは大変だったよ.ほとんど一から全部作らないといけなくてね.雨水を蓄えるために地下にパイプを通したり……家具もほとんど自分で作ったんだ.机とか棚とか.でもこのキャビネットは僕のお父さんが作ったものだ.カンタベリーから持ってきたんだよ.
と,重厚な作りのキャビネットを指して自慢げに笑うリチャード.
リチャード自身も大工として働いていた時期があると聞いていますが,彼のお父さんもまた大工でありミュージシャンだったと話してくれます.
リチャードのお父さんに対する尊敬の念はとても深く,これ以降もお父さんの話がよく出てきました.なお,この日リチャードはトレードマークのハンチング帽をかぶっていたのですが,これもお父さんのものだったのこと!物持ちがよすぎる……
RS:僕のお父さんが1950年代にかぶっていた帽子を何十年も経ってまだ僕が被っているなんて,不思議な感じだよね!
リビングにはLPの入った段ボール箱とCD棚もあったため,リチャードに断って見せてもらいました.LPをあさっているとO.A.K.のアルバムが出てきた!
私:あ!私これ持ってますよ!
本当に?と驚くリチャード.
私:もちろん!だってあなたが参加してますからね.
そう答えると,リチャードは「えー!またまた~(笑)」という感じですこし照れくさそうに,でもとても嬉しそうに笑っていました.
RS:本当はCaravanの1stアルバムのオリジナル盤とかも持っているんだけどね.それはとっても大切だから,別のところにしまってあるんだ.
CD棚には,ウェザーリポート,ジョン・マクラフリン,マイルス・デイヴィス,それからもちろんキャラヴァン,ハットフィールド・アンド・ザ・ノース,イン・カフーツなどが並んでいます.イン・カフーツのCDを持っていると伝えると,これまたリチャードはとても嬉しそうな顔をしていました.
料理を作っている間に子犬たちが起き出したました.確かに10匹も集まると中々の声量です.
リチャードは「Puppies Crying~♪」と機嫌よく歌ったり,口笛を吹いたりしながら天ぷらを作っていきます.
作りながら日本の思い出話もしてくれました.ソロで日本に行ったときお世話になった人がたくさんいるとのことで,その人たちとの思い出話を聞かせてもらいました.「皆によろしく伝えておいてね」と何度も念押しされます.
これはヘザーにも,リチャード自身にも言われたことですが,リチャードはファンのことを「ファン」だとは思っていないそうです.
RS:「友達」だよ.僕らみんなミュージックフレンドさ!
友達の多い日本でまたライヴをやりたいという気持ちはとても強いようです.是非またライヴをしに行きたい,という話は何度もしてくれました.
この年Caravanが日本に来たことを伝えると,とても驚いていました.どこのプロモーターが呼んだのか,客入りはどれくらいだったのかと気にしています.あなたもHatfield and the Northで公演したクラブチッタですよ,と言うと,覚えていました.チケットが完売だったと伝えると「そりゃいいね!」と笑顔.
RS:でもそんなにお客さんが入るのなら,ライヴ音源を録音してアルバムにして売ればいいのに.そのほうがお客さんにとっても,バンドにとってもいいと思うんだけどな.それに一日だけの公演はキツイよね.時差ボケの関係もあるから,日本に行ってすぐにライヴをしてまたすぐ帰るっていうのは,体力的にしんどいよね…….
ただリチャード自身は,はっきり言って今のCaravanに興味はないとのこと(「Paradise Filter」が出ていることも知らなかった).
RS:僕らが若いころは,僕らの間にマジックが生まれていて,お互いのやりたいことがうまくかみ合っていたけど……今はもう違うんだよね.
話すのに夢中になりすぎて,天ぷら用の油が熱くなりすぎてしまいました.しばらく冷まさなくてはいけないということでいったん休憩.
テーブルの端にクルミやオレンジが山と入ったかごが置かれていて,ヘザーに「食べる?」とすすめられました.オレンジを切ってもらっていただくと,そのあまりの美味しさに驚愕.日本のものとは全然違います.
またしばらくヘザーと話していると,ふと足元にやわらかい感触が.見るといつの間にか猫がやってきていました!エリックという名前らしい.
手を差し伸べたら,なんと向こうからぐりぐりとすり寄ってくる!
え......猫ってこんな人懐っこい生き物だっけ……私の知ってる猫じゃないんですけど……
これが……これがリチャードの教育の賜物……!
香ばしいにおいがしてくると思ったら,リチャードが栗を焼いていました.イタリアで焼き栗を食べるとは,と驚きつつテーブルに運ばれてくるそれに舌鼓をうちます.ヘザーがワインをいれてくれました.
そのうちに,ついに完成したリチャードの手料理がぞくぞくと運ばれてきました!
メインはえびといかの天ぷら,アボカドのサラダ,あずきごはんに梅干しペースト.
天ぷらは日本のものとは違って衣自体に味がついており,唐揚げといったほうが近いかもしれません.バジルかなにかのスパイスやごまの風味が効かせてあってとても美味しい.
「リチャードはとてもいいシェフですね!」と言うと,ヘザーが「本当にそうよ」とうなずいていました.正直,このレベルの料理を毎日食べられるのは本気で羨ましい.
食べ終わった頃には18:00を過ぎていました.今度は犬猫たちの食事の時間です.
リチャードが再びキッチンに戻り,巨大なボウルを取り出してそこにドッグフードをあけていきます.
RS:いつもはもっとちゃんとした肉をあげてるんだ.でも今日は切らしちゃってて……これはこういうときのための非常食みたいなもんだね!
固形タイプのドッグフードとドロッとしたタイプのドッグフードを混ぜ合わせ,家の中にいる犬たちも全部外に出して餌やりです.その間,ヘザーは子犬たちに注射器を使ってミルクをあげていました.
時刻は20:00を回っており,さすがに長居しすぎた……!ということで街に戻ることに.またリチャードの運転で送ってもらいました.スーパーマーケットで買いたいものがあるから,ということでヘザーも一緒でした.
スーパーではヘザーが「ホテルで何か要るものはある?」と聞いてくれましたが(めちゃくちゃ親切……),一通りそろっているので丁重にお断りしました.
リチャードは犬たちのための肉を大量に買い込んでいました(ちなみにこの「大量」というのは文字通り本当に“大量”で,低学年くらいの子どもならすっぽり入れそうなサイズの袋にぎっしりつめていました).
またホテル(というより部屋)の前まで送ってもらい,そこでお別れします.
「明日また12:00に来るよ!」とリチャード.
それじゃあおやすみなさい,と挨拶をして部屋の中へ入りました.昨日も書いたが最後まで正気,というか生命を保てたのは奇跡.
第3日目へと続きます.
明日はついにリチャードにインタビューする日です!乞うご期待!!